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京都府出身 杉原毅さん
 
ゴールドコーストで讃岐うどんの専門店『麺処杉』を経営されている元体育の先生・杉原毅さんにインタビューしてきました。讃岐うどんやオーストラリア産小麦のこと、お店をオープンさせるまでのいきさつ、そして今後の夢など熱く語っていただきました。今でも杉原さんのもとには、アルバイトとしてお店で働いていた人たちが新婚旅行で戻ってきたり、卒業生からの相談や実際に遊びにくる教え子が後を絶たないそうです。そんな数々のエピソードから、温かな人柄がうかがえます。
 
オーストラリアに来られたきっかけは?
毅さん
「日本で中学校の教師をしていたんですが、あるとき眠れなくなりまして。16、7年前ですかね。高校入試とかいろいろな問題で生徒の夢を見ては夜中に目覚めることが多くなってたという前兆はあったんですけど。長い間不眠で悩んでいたとき、同僚の先生から『生徒のことを考えても動きようのないところへ行っておいで』と言われて、行ってみようかなと思ったのがオーストラリアやったんです。だから、たいした計画も立てず、なんとなくという感じで来たのが最初でしたね。ゴールドコーストや他の東海岸の都市を中心に周ったんですけど、その時、ゆっくりと時が流れているなという感じがして……。それ以降、3〜4年ほど連続で来たのかな、観光というか休息に。教職を離れてここへきた理由の一つは年齢的なものです。教師をしていたときの僕の信条は『生涯一担任』。クラスの担任として生徒と接していたかったから。でも、自分より若い先生が多くなってきたら生徒のことばかり考えているだけではすまないし、どうしても先生たちの調整的な立場にならざるをえない。そういう状況が僕にはけっこうつらかった。もう一つは指導要領の改定など教育を取り巻く環境への疑問ですね。こんなことが本当に生徒のためになるのかと思うことがいっぱいあってね。それに埋没してしまう自分が嫌で。そこから少し離れて考えてみたかったし、違う世界にチャレンジしてみたいというのもありました」
なぜオーストラリアで讃岐うどん専門店を始めようと思われたのですか?
毅さん
「小さな動機は、最初のオーストラリア旅行の頃たまたま見たテレビ番組でしたね。うどんの食べ比べをしていたんです。オーストラリア産の小麦で打ったうどんと日本産の小麦で打ったうどん、どっちが美味しいか? というアンケート調査。そしたら何と回答した日本人の全員がオーストラリアの小麦の方が美味しいと答えたんですよ。当然、日本の小麦の方がうどんに適しているもんやと思っていたんで、すごく驚いて。なのにオーストラリアに来て初めて食べたうどんが美味くなかったんですよ。オーストラリアにはうどんに適したいい小麦があるって言われているのに何で? っていう思いが自分の中にあって。ケアンズに滞在していたとき、こんな素朴な街で小さな日本食のお店ができたらなぁ……という漠然とした夢が芽生えましたね」
体育の先生からオーストラリアでうどん店経営とは大きな変化ですよね?
毅さん
「そうですね。公務員とは全然違いますよね。今になって考えると思い切ったことをしたもんやと思います。うどん作りの訓練を受けてきたとはいっても商売にはずぶの素人がいきなり外国で開店なんてね。開店前の一ヶ月間くらいは、毎晩寝る前に『明日すべきこと』とノートに書いて考えて、翌日にそれを確認してから準備作業にあたる。そんな日の連続でしたね。ガスコンロを特注したときは困りましたよ。火力を表す単位がキロカロリーじゃなくてメガジュール。『何や!それ』っていう感じで、よく分らないまま『とにかくパワーの強いものを』と言って発注しましたよ。うどんに適した小麦を見つけるのにも時間がかかりましたね。同じ中力粉でも微妙に成分がちがいますから。何種類かの小麦を讃岐に送って成分分析をしてもらったり、こちらの業者の方に持ってきてもらったサンプルの小麦でうどんを作って食べ比べたりして。ようやく『これや!』と思える小麦を見つけたときはほっとしましたね。それからの毎日はメニューの試作と試食。頭の中にあったメニューを一つ一つ作っては自分で食べてみて、写真を撮ったり、店内の準備をしたり。全部一人でやってましたから、何日間か誰ともしゃべれなかったことがありましたね。だから開店の日、大きな滞りもなくお客さんに対応できたのが本当に嬉しかった。ただお客さんが帰られるとき『ありがとうございました!』と言うべきところを、つい今までの癖で危うく『ご馳走様でした!』と言いかけたことが何回かありましたよ」
讃岐うどんの麺はこちらで製造されているのですか?
毅さん
「『手打ち麺機』というのを日本から持ち込んでね。手打ちの讃岐うどんを作るのと同じ工程を、その機械がやってくれるんですよ。小麦をこねたり足で踏む工程とかを。もちろん何時間かの熟成の時間は必要だし、手作業でないとできないこともありますけどね。讃岐と同じ、コシのあるうどんが出来るんですよ。NHKの番組で『讃岐夢2000』っていう小麦の開発に成功したっていうのを見たことがあってね。うちで使っている機械の会社の方が去年来てくださった時、その小麦について訊ねてみたんです。香りの高い、いいうどんができるとおっしゃってました。でもオーストラリアの小麦で打った讃岐うどんの評価はそれに負けないくらい高いそうです。『オーストラリアン・スタンダード・ホワイト』と呼ばれてるんですけど。うちはそのASW(オーストラリアン・スタンダード・ホワイト)を使っているんですが、打ちたて、湯がきたてのうどんはかなり美味しいですね、自分で言うのもなんですが(笑)」
オーストラリア人にうどんは受け入れられましたか?
毅さん
「夜は日本のお客さんよりオージーのほうが多いですよ。昨日の夜もほとんどオージーでしたね、常連さんが多いです。オージーには『照り焼きチキンうどん(満喫写真館参照)』が好評ですよ。たぶん世界中にこの店にしかないメニューやと思うんですけど。湯がきたての讃岐うどんに照り焼きチキンをトッピングしたオリジナルのメニューです。うどんに照り焼きソースが絶妙にからんでね。日本人の感覚として、照り焼きチキンうどんなんて、と思われるかもしれませんけど。オージーは照り焼きが好きというのを聞いて、試作して食べてみたら美味くてね。バイトさんたちも始めの頃のまかないでは、日本的な山菜うどんやぶっかけうどんを食べますけど、試しに食べてみた照り焼きチキンうどんにはけっこうはまりますよ。今でこそなじみのオージーは好んでうどんを食べてくれるようになったけど、まだまだポピュラーじゃないですね。白くて色のついていない麺なので味がないようにみえるのかな。うどんの美味しさを知ってもらって広めていけたらなと思ってます。日本の方へのおすすめは『醤油うどん』や『かまあげうどん』。麺自体の美味しさが味わえますから」
ゴールドコーストに家を持ちたいと考えている人にアドバイスをお願いします。
毅さん
「あまり自由になる自分の時間が無いのでね。でも、ちょっと動いたらすごくきれいな海がすぐに見られるし。『雲ひとつない青空』っていう表現があるけど、ゴールドコーストの空はまさにそれですね。青空っていうより『宇宙』を見ているっていう感覚になることがありますよ。生活自体は便利ですね、日本の物もいろいろあるし。でも、日本で安い物がこちらで『うわっ、高い!』って思うことはありますけどね、ティッシュとか(笑)。日曜日は仕入れや準備をするんですけど、ちょっと時間があれば釣りに行ったり。日本では釣るのが大変な黒鯛も簡単に釣れるし、食べられるサイズやったら塩焼きにしたりね。バイトの子たちも焼き魚なんて食べる機会があまりないので喜んでくれます。ほっとする時間ですね」
今後の夢など、お聞かせください。
毅さん
「やりたいことはいっぱいあります。卒業生がこちらに遊びに来ることや、『留学したい』っていう相談を受けることが多くて。僕自身、子供と関わる仕事が好きなので、何らかの形で教育に関わりたいなと。こっちで勉強しようとする人たちを親身になって世話してあげたいなっていう、そんな気持ちがありますね。実は昨日も卒業生から相談を受けて家へ行ってました。結婚をしてこちらに住んでる卒業生なんです。少しは元気になってくれてたらいいんですけど。この仕事を始めて3年半になりますけど、なんか、教師の感覚がぬけませんね。日本の友達と話していても学校のことになるとつい熱くなってしまう。うどんを熱くせんといかんのにね。この仕事をしてみて見つけた喜びがありますよ。お客さんからの『美味しかった』のことばが、こんなに嬉しいもんだとは思わなくて。大きな発見でしたね。だから、美味しいうどんを食べてもらうために丁寧な仕事していこうと心がけています。もう一つ、本を書きたいという思いが強いですね。教員時代に感じてたことや退職にいたるまでのこと、こちらでの生活や体験などをまとめてみたい。そんなことを考えてますけど時間がなくて」
心のお守りにされているというたくさんのメールを読ませていただきましたが、教え子さんたちから親しまれているのですね?
毅さん
「退職したときにもらったメールです、僕を支えてくれた。いろんなことがあって悔しくて悲しくてつらいときやっただけに心に沁みて。身に余ることばの数々ですよ。嬉しいと同時に、僕は何をしてやったんやろ? たいしたこともしてないのになんでそんな有難いことを言うてもらえるんやろ? と戸惑ってしまいます」

日本から遠く離れたオーストラリアまで教え子や元アルバイトの人たちが杉原さんのもとへ集まってきます。体育の教師から讃岐うどん店経営とは思いきった転職ですが、どちらの仕事をしていても、『してあげられることをしてあげたい』という優しさをお持ちの杉原さん。店外に貼られた写真メニューを見て長い間迷っているお客さんの姿を見るたびに、『美味しいものを!』と思われるそうです。そんなお人柄も手伝って、オーストラリア人にも日本の味・讃岐うどんが受け入れられるようになったのだと思います。ちなみに、杉原さんご自慢の讃岐うどん『麺そのものの美味しさをもっと味わってもらいたい』と、日本食材を扱うお店への卸しを始められたそうです。ゴールドコースト滞在中の方は要チェックですよ!
『麺処杉』
Shop4, Triangle arcade37, Thomas Drive, Chevron island, QLD
電話: 07-5561-0234
営業時間: 昼食11:30〜14:00 / 夕食17:30〜20:00
定休日: 日曜日・祝日
取材・文・撮影/城文子
インタビュー/2005年04月29日