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横浜市出身 陸子・ミッツイ・シンプソンさん
 
サーファーズパラダイスにある診療所で医療通訳として活躍中の陸子さん。海外での病気や怪我は大変心細いですし、長期滞在者にとって医療関係は一番気がかりな点ですよね。実はわたしも、これまで陸子さんには何度もお世話になりました。ただ、ドクターとの会話を通訳するというだけではなく、診察前に声をかけてくれたり、こちらの症状を理解しながら、不安な気持ちを和らげてくれる心遣いがとても嬉しかったことを覚えています。ゴールドコーストで暮らす日本人にとって、頼もしい存在である陸子さんに、お仕事のことや34年におよぶゴールドコースト生活について語っていただきました。
 
まずは、34年前に移住してこられた時のことからお聞かせください。
陸子さん
「まだ、白豪主義が残っていたころで、3ヶ月の観光ビザを取得するのに、いろいろな条件をクリアしなければなりませんでした。さらに、条件をクリアしてもすぐにビザはもらえず、大使館に来るように言われ、そこで英語の口頭試験をされたのを今でも覚えています。長いようで短い34年間でしたね。最初の数年は、この国のすべてに慣れるのに必死でした。ひとり息子がヨチヨチ歩きをするのを見て、オーストラリアというこの国で、私もやっと歩き始めたばかりなんだなあ、と感じた若い日の自分を懐しく思い出しますね」
医療通訳としてご活躍中ですが、もともと英語が得意だったのですか?
陸子さん
「日本にいた時から英語の勉強は好きだったので、こちらに来ても言葉の上ではあまり不自由を感じることはありませんでした。でも、習慣や考えかたの違い、国民性の違いから傷つき、悲しみ悩んだ日々がたくさんありました。仕事の面では、ゴールドコーストの職業訓練学校の日本語コ―スの教師を10年、法律事務所の通訳翻訳を4〜5年、医療通訳は9年になります」
現在のお仕事である医療通訳に興味を持たれたきっかけは?
陸子さん
「最初の16年は、私自身が入院手術を繰り返した年月でもありました。言葉や習慣の異なる外国で病気をした時の不安、こちらの医療制度を知らなかったために起こる不信感や誤解を身を以って経験しました。同時に、テキパキと仕事をこなしながらもユーモアのセンスを失うことのない医者や看護スタッフ、素朴で温かい多くのオーストラリア人のやさしさに救われた時でもありました。法律・不動産売買・開発建築・移住など、いろいろな分野の通訳翻訳をてがけてきましたが、今の医療通訳が、正直言って、一番楽しいですね」
いつも生き生きと働いていらっしゃいますが、その秘訣は?
陸子さん
「私の場合、好きなことをして生計をたてることができていること、自分が医者ならこうありたいと思う医者にめぐり会えたこと、日本人の患者さんのケアにおいてボスと意見をかわすことができる環境にあることをとても幸運に思います。そして、良い日も大変な日もありながらも今だにこの仕事が好きで仕方ないのは、今の診療所の仕事のなかに私なりの生き甲斐とやり甲斐を見出しているからだと思います」
在豪34年と長いですが、オーストラリアのどういうところが好きですか?
陸子さん
「例えばバスの運転手さん。日本の運転手さんみたいに立派な制服は着ていないけど、気軽にバスの運転席から降りて来て、ひょいっとベビーカーを中にいれてくれたシドニーの運転手さんがいました。物にあふれる日本から来て、「物」より「心」のほうがいいと気づくのに、長くはかかりませんでしたね。またある時は、スーパーの入り口で向こうから来る中年のご夫婦のご主人が急に早足になったと思ったら、まずは私にショッピングカートをひとつ、そして、次は奥さまに。いくつになっても女であることをエンジョイさせてくれますよね。それから、目があうと、『やあ、すばらしい天気ですね。こんな日に働いているのは、もったいない』と言って通りすぎる老紳士。それから、診療所の、どうしようもない忙しさの中で私は、『Love You!』と受付のアニ−タを後からギュッと抱きしめることがあります。髪には、おまけのペック。ペックとは、この国の習慣で私が好きなものの一つですが、男女の間でも女性同士でもいいから、抱きしめてハッグ(心をこめて抱きしめること)をした時に相手の頬に軽く唇をつけることを言います。これをするだけでお互いに対する思いやりといたわりを取り戻すことができるような気がしますね。そして、こちらがするちょっとしたことを、とてもよく見ていてくれて、一日の終りにかならず、『ありがとう』と言ってくれるボス。こうやって、一日のちょっとした瞬間を楽しくしてくれる人、オーストラリアにはこういう人がたくさんいます。私がまだこの国にいる理由は、こんなところにもあるのかもしれません」
最後に、今までのオーストラリア生活を振り返ってみて、どうお考えですか?
陸子さん
「この国は、私が私らしく生きられる国なので、気にいっています。たまたま、医療通訳という自分の好きなことを仕事にして、自分の好きな国でごくごく普通に暮らしています。本当に恵まれていると思いますね。日本にも、もちろん良いところはたくさんありますが、この34年のあいだに得たものを忘れずに、これからもこの国で、通訳の仕事を通じ、不運にもゴールドコースト滞在中に病気や怪我をしてしまった日本の方が、本当のオーストラリアとオーストラリア人の良さにふれるお手伝いをすることができれば、とても嬉しく思いますね」

陸子さんのお世話になる時は病気を抱えている状態ですから、気持ちが落ち込んでいたり、不安で仕方がない場合が多いです。それが、診療所を出る頃にはなんとなく明るい気分を取り戻しているから不思議です。予約した時間に待合室で座っていると、いろいろと声をかけて下さり、てきぱきと症状の要点を聞き出してくれます。安心して診察を終えた後には、薬局に付き添ってこちらが理解するまでお薬の説明を何度も繰り返して下さいます。好きなことを仕事にして、ボスや同僚にも恵まれて、いつも一生懸命にわれわれ日本人患者の力になってくれる陸子さん。ご自身のホームページには、この国での生活、そしてお仕事をどれだけエンジョイされているかが綴られています。そちらのエッセイを読んでいただくと、陸子さんのお人柄や仕事への情熱が伝わってくるはずです。ぜひとも一読を!
インタビューコーディネイト/荒木祥久
取材・文・撮影/城文子
インタビュー/2005年05月14日